働き方・組織

イルミルド創業ストーリー

四畳半の部屋に、中古ショップで1,500円で買ったボロボロの事務用デスクが3つ。男3人がひしめき合う狭い空間は、夏になると汗臭いにおいが充満していた。

これがD2C業界で急成長を遂げ、Financial Times社「アジア太平洋地域の高成長企業2025 」を受賞(2年連続)しているイルミルド株式会社の原点。

代表の西にインタビューして見えてきたのは、単なる美談ではない、失敗と反省、そして人間臭い葛藤の連続の物語だった。

西は元吉本のお笑い芸人。芸人を辞め、ビジネスの世界に入ったものの、メンバーに「家族に言えない仕事」とまで言われた創業期。そこからどうやって、ヘアケア・スキンケア・オーラルケア・飲料など多岐にわたるブランドを企画・開発し、複数の商品でamazon年間カテゴリーランキング1位獲得、楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー2024受賞、楽天ベストコスメ2024殿堂入りするなど、多くのヒット商品を創出する企業へと成長できたのか。

その軌跡を探っていく。


第1章:「家族に言えない仕事」が、ぜんぶの始まりだった。

「創業時のオフィスは、大阪の枚方市にある4畳半のひと部屋でした。1,500円で買った中古の事務デスクを3つ、ぎゅうぎゅうに詰め込んで置いてたんです。夏場はもう本当に汗臭くて…」

西が屈託なく笑う。

Amazonの販売力に目をつけ、最初に始めたのはなんと「古紙回収」。タウンページで廃品回収業者に片っ端から電話をかけ、譲ってもらった中古本をAmazonで売る。数十件、数百件と電話や訪問を重ね、ようやく仕入れた数冊の本がAmazonで売れた時、その売上はわずか800円だった。

——えっ、800円!?

「そうなんです笑。でも、0から800円を生み出せたのは、めちゃくちゃ嬉しかったんですよね。何かが前に一歩進んだ感覚がありました。」

その後、Amazonという市場でカテゴリー問わず「利益が出るなら何でも」と取扱い商品を増やしていった一方で、心にはなにか空虚感のようなものが宿っていた。

商品を右から左に流すだけの誰がやっても同じ仕事、1年後の展望も見えない現実、会社に残る資産は何もない—。

「オフィスから会話がなくなっていったんですよね。」

深夜まで働いてくれた仲間たちの熱が次第に冷めていく。
みんな頑張ってくれているのに、結果を出せない。張りぼての言葉を言っても収益がなければ誰も守れない。

そんな時、追い打ちをかけるようにある“事件”が起きる。
お客様から新築祝いのプレゼントとして「ロボット掃除機」の注文が入ったが、会社側のミスで中古品を送ってしまったのだ。

「当然、先方からめちゃくちゃ怒られました。」

西は香川県まで飛んでいき、人生で初めて土下座をした。

「誰かを喜ばせるはずだったのに、これほどの怒りに変えてしまった。販売事業者としての責任を痛感して、これまでの自分を猛省しました。」

自分たちがやってきたことへの「虚無感」に限界を感じ始めていたその時、創業メンバーのボビーが放った一言が、すべてを決定づけた。

「仕事のこと、家族に言えないんスよね…」

「このままではダメだ…。」

顧客の怒りと、誇りを失った仲間の告白。八方塞がりの状況のなかで、西は自分たちのこれからを必死に考えていた。

これまで何度も、事業は立ち上げては潰してきた。中古本の販売は、供給が止まれば一瞬で成り立たなくなる。無在庫販売も試したが、仕入れ元の都合ひとつで、同じように終わりが訪れる。どれも短期的には回っても、積み上がるものが何も残らないビジネスだった。

「このやり方では、会社は続かない。」
そう腹の底で理解したとき、ひとつの選択肢が浮かび上がった。

-オリジナルブランドしかない。

「正直、きれいな理由じゃなかったです。会社を存続させる“手段”として、オリジナルブランドを選んだんです。とにかく生き残るために必死でした。」


第2章:失敗から学び、想いを仕組みへ

こうして、イルミルドは自社ブランド「オルナオーガニック」の開発に乗り出す。しかし、集まったのは化粧品業界での経験がない“素人集団”。開発現場は、理想とは程遠い「戦場」のようなものだった。

「スピード感をもって世に出したいメンバーと、細部までこだわりたい開発メンバー。毎晩のように深夜2時頃まで、ああでもないこうでもないと議論していました。もう、怒鳴り合いに近い感じでしたね(笑)」

だが不思議なことに、そのカオスの中に確かな「熱」があった。自分たちの手で、世の中にない新しい価値を創り上げる。その純粋な楽しさとハングリー精神が、チームを突き動かしていた。

苦労の末に生まれた「オルナオーガニック」。ある日、Amazonのレビューをチェックしていた西の目に、ある一文が飛び込んでくる。

“友人のプレゼントとして贈ったら、とても喜んでもらえました!”

「もう、びっくりするくらい嬉しかったですね。」

かつては自身のミスで「怒り」を生み、土下座までした仕事。家族に誇れなかった仕事が、今度は誰かの大切な人の笑顔を作っている。特別な瞬間のための“贈り物”に選ばれた。

「自分たちの仕事は間違っていなかった。」それを実感できる出来事だった。

▲初の自社開発商品「オルナオーガニック クレンジングジェル」

オリジナルブランド誕生後は、2年目、3年目とその勢いは加速度を増していく。
その原動力となったのは、転売ビジネスという泥臭い現場で磨き上げた圧倒的な運用ノウハウだった。徹底したコスト管理で「高品質・低価格」の限界を突き抜けた結果、オルナオーガニックは大手ブランドをも圧倒する勢いで成長。続く第2のブランドWHITH WHITE(フィスホワイト)も順調に成長し、ヒットを飛ばしていった。

「業界でトップになるぞ!」

自信に満ち溢れていた。商品開発のプロをメンバーに招き、付加価値の高い開発に乗り出す。同時並行でECモール運用も磨いていった。成功の方程式で機械的に量産し、新ブランドを次々にリリース。しかし、次第にヒット率は急落し、会社は途方もない過剰在庫を抱えることになっていた。

「自分たちの事業規模からすると、とてつもない在庫の数でした。」

ピーク時には資金がショート寸前に。必死の思いで銀行に頭を下げて融資を取り付け、なんとか『時間』を稼ぐ日々。最後は赤字を覚悟して在庫を叩き売り、まさに首の皮一枚で破綻の危機を乗り越えた状況だった。

自分たちの何がいけなかったのか。当方に暮れていた時、ある美容室専売品メーカーの社長さんに出会う。

「もうね、めちゃくちゃ自分のブランドを愛しているんですよ。『うちのシャンプーが世界一だ!』と本気で熱く語るんです。細かい成分の話になると、もう止まらない。その熱量をそこの社員さんがそのまま受け取って、次は美容師さん、そして最後にお客さんへと伝わっていく。その『温度感のバトン』があるからこそ、美容室専売品メーカーながら、SNSでオーガニックのUGCが毎日50件以上投稿されてるそうなんです。」

西がこれまでやってきたブランドづくりと全然違っていた。何とか生き残る道を、といきついたオリジナルブランドづくり。けれどその本質は、転売時代とさほど変わっていなかった。 いかに効率よく市場をハックし、数字を最大化するか。西が夢中になっていたのは「ブランドづくり」ではなく、自社商品を駒にした「拡大ゲーム」だった。

「それだけじゃダメなんだなっていう事に気づかせてもらいましたね。」


次の日、西はさっそく社員に「どんな商品を、どんな想いで作りたいか。本音を教えて欲しい。」と伝えた。

「そしたらね。驚きました。返ってきたのは、社員のみんなが胸の奥に秘めていた『商品への情熱』が詰まった、真っ直ぐなメッセージの塊だったんです。」

—この商品に出会って、人生が前向きに変われるきっかけをつくりたい。

—誰かの日常に浸透し、毎日の気分が上がる存在になりたい。

—家族や友人や社会に誇れる商品だけをつくりたい。

企画開発メンバーから集まった想いを、西は社員総会でみんなの前で読み上げた。読みながら、涙が止まらなかった。

「分かっていなかったのは、僕だったんですよね。」

ただ売上を上げるだけじゃない。自分たちが熱意と愛情をもってつくった商品がお客さんの心を動かしたときに、自分たちの幸せがある。


Illuminate the World
あなたの世界に、
輝きを。



イルミルドが大切にすることが見えてきた瞬間だった。


第3章:EC業界のLVMHを目指す

「今、イルミルドはAmazonのヘアケアカテゴリーで3位という位置にいます。名だたる大手ブランドがひしめく中で、なぜ新興のD2C企業である私たちがここまで戦えるのか。それは、私たちがECでの勝ち筋を徹底的に磨いてきたからだと思っています。」

西は、現在のイルミルドの立ち位置を、そう分析する。店舗販売を主軸とする旧来型のメーカーに対し、イルミルドはECモールを「お買い物インフラ」と捉え、そこでの勝ち筋を徹底的に解剖してきた。市場調査、ブランド開発、物流、モール運用、広告プロモーションからCS対応まで。かつての「素人集団」は、今や一連の流れを自社内で体系化し、高速でPDCAを回すプロフェッショナル集団へと成長を続けている。

「EC業界のLVMHを目指しているんです。」

西は、壮大なビジョンを語る。

「マルチブランド展開は、トレンドに左右されず生き残るための生存戦略です。一つのヒットに依存せず、各ブランドが自立し、誇りを持つ。それらが集結することで、揺るぎない強固な組織が生まれる。僕がいなくなった後も価値が受け継がれ、走り続ける。そんな『価値の連鎖』を残したいんです。」

それは、かつて「供給が止まれば終わる」転売ビジネスの脆さに震えていた西がたどり着いた、究極の「持続可能な経営」の形だった。
目指しているのは、短期的な成功ではない。10年、20年ではなく、100年先も選ばれ続けるブランドをつくることだ。

「たとえばLVMHが手がける『ルイ・ヴィトン』や『ディオール』って、手に取った瞬間に気持ちが高揚するじゃないですか。あれは単にモノが高価だからじゃない。長い時間をかけて磨かれた思想や美意識、つくり手の誇りが、体験として受け取れるからだと思うんです。」

西が目指しているのは、そんな圧倒的な熱量を持ったブランドたちが集まる、ワクワクするような最強のドリームチームだ。 一つひとつのブランドが主役として輝き、それらが集まった時、100年先まで価値を届け続ける揺るぎない組織になれると信じている。

4畳半の部屋で、800円の売上に震えていた過去は、今も西の原点にある。だからこそ、一時の成功ではなく、100年先まで続く価値を選び続けている。

エピローグ

——私が社員になったばかりの頃、西さんが社員総会の打ち上げで、メンバー1人ひとりに声をかけて、感謝の気持ちを伝えているのがすごく印象的で。しかも、ちょっと涙ぐみながら。酔ってただけかもしれないんですけど(笑)1人ひとりに真正面から向き合う人なんだなと思ったんです。

「いやぁ実は僕ね、劣等感まみれの男だったんです。高卒だし、宿題もやったことがないし、忘れ物ばかり。中学生の頃は背も小さくて、同級生にいじられても言い返せないような子どもでした。」

そんな西が、ビジネスという厳しい勝負の世界で生き残るために身につけた術。それが「相手をありのまま受けとめる」という、泥臭いコミュニケーションだった。

「一方的なトップダウンで押さえつけるのではなく、常に支え合い、並走する関係でありたいんです。もちろんプロとして、高い目標に挑む厳しさは不可欠です。これまでも、不完全な自分を支えてくれる仲間がいたからこそ、がむしゃらに走り続けてこられました。イルミルドが歩んできたこの10年の劇的な変化は、間違いなく仲間のおかげです。だからこそ、今一緒にいるみんなの成長を信じているし、全力で応援したいんです。」

創業期、「家族に言えない仕事」という言葉からはじまったイルミルドの挑戦。今では、自分たちが生み出した商品が、どこかで誰かの日常をそっと照らしている。その確かな手応えが私たちの誇りとなっている。